証明書失効検証(CRL・OCSP・OCSP Stapling)
1. 概要
A. 定義
証明書失効(Certificate Revocation) とは、まだ有効期間が残っている公開鍵証明書(X.509)が何らかの事由により信頼できなくなったとき、発行機関(CA)がその証明書を「無効」と宣言する行為である。失効検証(Revocation Checking) とは、証明書を信頼する前に「この証明書が失効リストに載っていないか」を確認する手続きであり、代表的なメカニズムが CRL(Certificate Revocation List)、OCSP(Online Certificate Status Protocol)、そして OCSP を性能・プライバシーの面で補完した OCSP Stapling である。
公開鍵基盤(PKI)において証明書は「有効期間(notBefore~notAfter)」の間は有効であると仮定されるが、現実には有効期間が終わる前に秘密鍵が漏洩したり発行情報が変わったりする事故が発生する。このとき有効期間だけでは信頼を撤回する方法がないため、PKI は「有効期間」とは別に「失効」という 能動的な信頼撤回手段 を設ける。すなわち証明書検証は、署名チェーン検証(信頼経路)と失効検証(撤回の有無)という二つの軸で完成し、失効検証が欠ければ、窃取された鍵で署名した偽サーバを正常として信頼してしまう致命的な空白が生じる。
失効検証の本質的な難しさは 「リアルタイム性」と「拡張性・プライバシー」の衝突 にある。失効の事実を可能な限り速く世界中の検証者(ブラウザ・クライアント)に知らせてこそ信頼撤回が効果を発揮するが、数億枚の証明書を数十億のクライアントが接続のたびに照会すれば、ネットワーク・CA の負荷と遅延、そして「誰がどのサイトに接続するか」が CA に露出するプライバシー問題が同時に発生する。以下で扱う CRL・OCSP・Stapling・CRLite などは、いずれもこの衝突を互いに異なる方式で折衷した成果物である。
B. 登場の背景と必要性
初期の PKI 標準(RFC 5280 など)は、失効手段として CRL を最初に定義した。CRL は、CA が失効した証明書のシリアル番号(Serial Number)を集めて署名した「ブラックリスト」を周期的に配布する方式で、構造が単純でオフライン検証が可能であるという利点があった。しかしインターネットの規模が大きくなるにつれ、CRL ファイル自体が数 MB に達して毎回ダウンロードするのが難しくなり、最新の失効情報が反映されるまで数時間~数日の遅延が生じる 適時性(Timeliness)の限界 が露呈した。
これを補完するため、RFC 6960 として標準化された OCSP が登場した。OCSP は特定の証明書一つの状態のみをリアルタイムに照会・応答する方式で、伝送量と遅延を減らした。しかし OCSP は クライアントが接続しようとするサイトを CA にそのまま露出する プライバシー問題、OCSP 応答サーバが遅かったり障害であったりするときに接続遅延が発生する可用性問題を生んだ。さらに応答サーバの障害時に、ほとんどのブラウザが「安全に遮断する」のではなく「ひとまず通過させる」ソフトフェイル(Soft-fail) を選ぶことで、攻撃者が OCSP トラフィックだけ遮断すれば失効検証を無力化できるという根本的な限界が露呈した。
このような背景から、応答をサーバが代わりに受け取って TLS ハンドシェイクに載せて送る OCSP Stapling、ブラウザが失効情報を圧縮してあらかじめダウンロードする CRLite・CRLSets、そして有効期間自体を短く縮めて失効への依存度を下げる 短命証明書(Short-lived Certificate) 戦略が順に提示された。技術士の観点から失効検証は、「完璧な単一の解法はなく、セキュリティ・性能・プライバシー・可用性を状況に合わせて折衷する設計問題」として理解すべきである。
とりわけ失効検証は、TLS・PKI というインターネットの信頼の根に触れているため、一つの CA や一つのブラウザの設計変更が世界中の数十億の接続に即座に影響するという 波及性 を持つ。したがって失効メカニズムの選択は、特定サービスの性能最適化問題ではなく、標準化機構(IETF・CA/Browser Forum)と主要ブラウザ・CA が共に決定するエコシステム次元のガバナンス問題として扱われる。最近 Let's Encrypt の OCSP 廃止や有効期間短縮の議決が業界全体の運用方式を変えているのもこのためであり、実務者はこうした上位標準の変化を常時追跡し、自らの証明書運用体系に先行的に反映しなければならない。
2. 失効検証の全体構造と失効事由
証明書失効検証は、発行(CA)–配布(検証インフラ)–検証(クライアント)の三層の流れで成り立つ。以下の全体構造図は、CA が失効を宣言した後、その情報が CRL・OCSP・Stapling の経路を経て検証者に到達する過程を示す。どの経路を使っても出発点は CA の失効宣言であり、違いは「失効情報を誰が・いつ・どのように取得するか」にある。
flowchart TD
CA["認証機関(CA) - 失効宣言·署名"]
REPO["失効ストア(CRL 配布点·OCSP Responder)"]
SERVER["対象サーバ(TLS 終端)"]
CLIENT["検証クライアント(ブラウザ)"]
CA -->|"失効シリアル番号を登録"| REPO
REPO -->|"① CRL 全リストをダウンロード"| CLIENT
REPO -->|"② OCSP 単件照会·応答"| CLIENT
REPO -->|"③ サーバが OCSP 応答を事前受信"| SERVER
SERVER -->|"③ TLS ハンドシェイクに応答を添付(Stapling)"| CLIENT
CLIENT -->|"失効の有無を判定し信頼·遮断"| CLIENT
style CA fill:#e8f0fe,stroke:#2f6fed,stroke-width:1px
style REPO fill:#eafbea,stroke:#2f9e44,stroke-width:1px
style CLIENT fill:#fef3e8,stroke:#ed8f2f,stroke-width:2px
A. 失効が必要な状況(失効事由)
失効は任意に起こるのではなく、明確な事由コード(reasonCode)に基づく。最も深刻な事由は 鍵侵害(keyCompromise) であり、証明書に対応する秘密鍵が漏洩・窃取された場合である。このときは攻撃者がその鍵で正常なサーバを装えるため、即時かつ広範な信頼撤回が必要となる。2014 年に OpenSSL の Heartbleed 脆弱性により、多数のサーバ秘密鍵がメモリから露出しうる事実が明らかになると、世界的に大規模な再発行・失効が起こり CRL が急増した事例が代表的である。
その他、CA 運用上の事由としては 発行情報の変更(affiliationChanged)、上位証明書の失効に伴う連鎖失効、加入者の業務停止(cessationOfOperation)、誤発行(不十分なドメイン検証など CA ポリシー違反)などがある。実際に、CA がドメイン所有検証を誤って発行した証明書が発見されると、CA/Browser Forum の規定に従い、CA は定められた期限(おおむね 24 時間~5 日)内にその証明書を義務的に失効させなければならない。このように失効は、セキュリティ事故だけでなく CA 信頼体系の説明責任(Accountability) を担保する制度的装置でもある。
失効事由のうち特に重要なのは 上位(中間・ルート)CA 証明書の失効 である。信頼チェーンの上位証明書が失効すると、その下で発行された全ての下位証明書が一度に信頼を失うため、影響範囲が単一のサーバではなく CA 全体の加入者へ拡散する。実際の CA 運用違反により中間 CA がルートストアから排除・不信(distrust)された事例は、失効が個々の証明書の問題を越えて 信頼エコシステム全体のリスク管理 の問題であることを示す。したがって組織は、自らが依存する CA の信頼度・運用履歴までを失効対応計画の変数とすべきである。
B. 失効検証の基本原理
検証者は証明書チェーンに沿って各証明書について、(1) 署名・有効期間・名前制約などの「静的検証」と、(2) 失効の有無という「動的検証」を併せて行う。証明書の中には、失効情報をどこで得るかを知らせる二つの拡張フィールドが入っている。CDP(CRL Distribution Points) は CRL を取得する URL を、AIA(Authority Information Access) の OCSP 項目は OCSP 応答サーバの URL を指す。検証者はこのポインタをたどって失効情報を照会した後、対象証明書のシリアル番号が失効しているかを判定する。
ここで核心的な設計上の争点は 「照会が失敗したらどうするか」 である。「ハードフェイル(Hard-fail)」は失効情報を確認できなければ接続を遮断する安全優先のポリシーであり、「ソフトフェイル(Soft-fail)」はひとまず接続を許可する可用性優先のポリシーである。ほとんどの商用ブラウザはユーザ体験と可用性を理由にソフトフェイルを採用してきたが、これは攻撃者が失効照会トラフィックだけ遮断すれば失効した証明書も通してしまうという構造的な弱点を残す。まさにこの弱点が、OCSP Stapling とブラウザ内蔵型失効リスト(CRLite など)が登場した直接の動機である。
ソフトフェイルが普遍化した理由は、逆説的にも「失効インフラ自体の不安定性」である。OCSP Responder や CRL 配布点がダウンしたときにハードフェイルを適用すると、正常なサーバであるのに失効照会ができず、世界中のユーザが接続できない大規模障害が発生しうる。過去に主要 CA の OCSP 障害が広範な接続不能を引き起こした経験が積み重なり、ブラウザは「失効検証の失敗による可用性事故」を避けるためソフトフェイルに傾いた。この選択はセキュリティを一部譲歩した現実的な妥協であり、その空白を埋めるため、検証をネットワーク照会から分離(Stapling・内蔵型)しようとする流れが強まったのである。
3. 失効検証メカニズム
三つのメカニズムは「失効情報を誰が取得し誰に届けるか」の責任分担が異なる。以下の詳細図は、OCSP Stapling が適用された TLS ハンドシェイクで、サーバが OCSP 応答を代わりに受け取ってクライアントに添付する流れを表す。通常の OCSP ではクライアントが直接 Responder に照会していた段階を、サーバが事前に代わりに行う点が核心的な違いである。
sequenceDiagram
participant R as OCSP Responder(CA)
participant S as Web サーバ
participant C as クライアント(ブラウザ)
S->>R: 自証明書の状態を事前照会(周期的)
R-->>S: 署名された OCSP 応答(有効期間を含む)
Note over S: 応答をキャッシュ(Staple 準備)
C->>S: TLS ClientHello(status_request 拡張)
S-->>C: 証明書 + 添付された OCSP 応答(Stapled)
Note over C: サーバ接続だけで失効確認が完了
C->>C: 署名·有効期間の検証後に信頼·遮断
A. CRL(Certificate Revocation List)
CRL は、CA が失効した証明書のシリアル番号と失効時刻・事由を集めて CA 秘密鍵で署名したリストである。検証者は CDP が指す URL から CRL をダウンロードしてキャッシュしておき、対象証明書のシリアル番号がリストにあるか照合する。署名されているため改ざんが不可能であり、一度取得しておけば次の更新(nextUpdate)まで オフライン検証 が可能である点が大きな利点である。
欠点は規模と適時性である。大型 CA の CRL は数十万数百万件の項目を含み、ファイルが数 MB に達することがあり、クライアントがこれを全て取得して解析するコストは大きい。また CRL は通常、数時間数日の周期で更新されるため、たった今失効した証明書が次の発行までリストに反映されない 時差 が存在する。これを緩和するため、変更分のみを含む Delta CRL、セグメントに分割する Partitioned CRL のような手法があるが、根本的に「全リストを配布する」という構造的な負担は残る。
規模の問題は事故の状況でいっそう極端になる。2014 年の Heartbleed の際には、短期間に数十万枚の証明書が失効対象となり、一部 CA の CRL が急激に大きくなって、全てのクライアントが毎回これをダウンロードするコストが非現実的であることが露呈した。この経験は「失効情報をクライアントが直接、全量ダウンロードする」という前提自体を再考させ、続いて登場したブラウザ内蔵型(CRLite)・サーバ主導型(Stapling)アプローチの設計動機となった。
それでも CRL は最近あらためて注目されている。Let's Encrypt が 2025 年 8 月に OCSP サービスを終了し、失効情報を CRL のみで提供するよう転換したのが代表的である。クライアントが巨大な CRL を直接受け取る代わりに、ブラウザが全 CA の CRL を収集・圧縮して内蔵する CRLite・CRLSets 方式と結合することで、CRL の「オフライン・プライバシー」の利点を活かしつつ「サイズ」の欠点を補完する方向へ進化している。すなわち CRL は「配布単位」としては生き残り、「検証時点のネットワーク照会」は消える方向に役割が再定義されている。
B. OCSP(Online Certificate Status Protocol)
OCSP は、検証者が 証明書一枚の状態のみ を OCSP Responder に照会し、「good / revoked / unknown」の応答を署名された形で受け取るプロトコルである。全リストを受け取る必要がないため伝送量が小さく、CRL より最新の状態に近く応答できる。HTTP で動作し、応答にも自身の有効期間があるため、Responder や中間キャッシュで再利用される。
しかし OCSP には三つの構造的な弱点がある。第一に プライバシー:クライアントが接続しようとするサイトの証明書を CA に照会するため、CA(または経路上の観察者)が「誰がどのサイトを訪問するか」を知りうる。Let's Encrypt が OCSP を廃止した核心的な理由が、まさにこのプライバシーリスクであった。第二に 性能:新規接続のたびに第三者である Responder への往復照会が必要で、TLS ハンドシェイクの遅延が大きくなる。第三に 可用性・セキュリティ:Responder が遅かったり障害であったりするとき、ソフトフェイルにより失効検証が事実上無力化される。この三つの弱点を一挙に緩和しようとする試みが OCSP Stapling である。
性能の観点を数値で見ると問題が明確になる。第三者 Responder への OCSP 往復がネットワーク状態に応じて数十~数百ミリ秒かかると、これは TLS ハンドシェイク全体の遅延にそのまま加わる。世界中の数億のユーザが新規接続のたびにこの往復を行えば、Responder には毎秒膨大な照会が殺到し、可用性確保のコストが急増し、ユーザの体感応答速度も悪化する。結局「リアルタイム性のために毎回照会する」という OCSP の設計前提が、大規模環境ではかえって性能・可用性のボトルネックになるという逆説が露呈する。
C. OCSP Stapling
OCSP Stapling(TLS Certificate Status Request 拡張)は、失効状態照会の 主体をクライアントからサーバへ移す 手法である。Web サーバが自らの証明書に対する OCSP 応答を周期的にあらかじめ受け取ってキャッシュしておき、クライアントとの TLS ハンドシェイク時に証明書と共にその署名された応答を「添付(staple)」して送る。クライアントはサーバ接続だけで失効状態を確認するため、CA に別途照会を行わない。
この転換は三つの弱点を同時に改善する。クライアントが CA に直接照会しないため プライバシー が保護され、往復照会が消えて 遅延 が減り、サーバが一つの応答を多数のクライアントに再利用するため CA Responder の 負荷 が大きく減少する。たとえば OCSP 応答の有効期間が数日であれば、サーバはその期間に応答を一度だけ受け取ってキャッシュしておき、数百万件のハンドシェイクに再利用でき、CA への照会量を事実上「接続数」から「サーバ数 × 更新周期」へと落とす。
ただしサーバが Stapling を設定しなければ効果がなく、攻撃者が Stapled 応答を「欠落」させて再びソフトフェイルに戻せるという限界が残る。またサーバキャッシュの応答が期限切れであるのに更新に失敗すると、かえって新鮮でない応答を提示したり Stapling が切れたりしうるため、サーバ側の安定した OCSP 応答更新運用が前提となる。この「欠落による後退」の弱点を制度的に防ぐのが、次の Must-Staple である。
D. 補完・代替手法(Must-Staple・CRLite・短命証明書・CT)
OCSP Must-Staple は、証明書に「この証明書は必ず Stapled OCSP 応答と共に提示されなければならない」というフラグを入れ、応答が欠落すればクライアントがハードフェイルで接続を遮断するようにする拡張である。ソフトフェイルの穴を埋めるが、サーバ・CA の対応が限定的で運用の難度が高いため、広くは使われなかった。
ブラウザ陣営は、いっそ失効照会をクライアント内部に取り込んだ。Chrome の CRLSets は Google が重要な失効項目を選別・集計してブラウザにプッシュする方式であり、Firefox の CRLite は全 CA の失効情報をブルームフィルタのカスケードで圧縮し数 MB 水準で内蔵する方式である。いずれも接続時点のネットワーク照会なしにローカルで失効を判定するため、プライバシー・性能・可用性を同時に確保する。ただし選別・更新の周期に応じて完全性・適時性に限界がありうる。
CRLite の工学的な核心は、「失効したもの」と「失効していないもの」の双方を知っている状態で、ブルームフィルタを複数段に積み重ねて誤検知(False Positive)を繰り返し除去する フィルタカスケード 構造である。こうすれば数億件の失効状態を損失なく数 MB に圧縮しつつ、照会結果が決定的(確実な good/revoked)になるよう保証できる。これは確率的データ構造を「近似判定」ではなく「正確判定」に活用した事例であり、失効検証というセキュリティ問題をデータ構造・圧縮という計算機科学的アプローチで解いた好例である。ただし全 CA の新鮮な失効情報を集めて周期的にビルド・配布するバックエンドパイプラインが前提となるため、この方式は大規模なブラウザベンダのみが担えるという現実的な制約も併せ持つ。
最も根本的な流れは 証明書の有効期間短縮 である。有効期間が短ければ、失効ではなく「まもなく満了」でリスクを自然に解消でき、失効への依存度が下がる。CA/Browser Forum は 2025 年 4 月の SC-081 投票で、公開信頼 TLS 証明書の最大有効期間を 2026 年 3 月に 200 日、2027 年 3 月に 100 日、2029 年 3 月に 47 日へと段階的に縮小することを議決した。これは自動化された証明書管理(ACME)を前提としたものであり、失効検証の重心を「事後の撤回」から「事前の満了」へ移す転換を意味する。一方 証明書透明性(CT, Certificate Transparency) は、失効とは別に誤発行を「事後に検知」する補完軸であり、全ての発行ログを公開して CA の誤発行を検知できるようにする。
4. 手法の比較と実務適用
三つのメカニズムは優劣の関係ではなく、適用環境に応じた選択肢である。比較の核心は「ネットワーク照会の位置」「プライバシー」「適時性」「障害時の動作」であり、この違いがそのまま実務配置の根拠となる。たとえば大規模な公開 Web サービスは Stapling で遅延・プライバシーを押さえ、閉域網・IoT のように常時接続が難しい環境はオフライン検証が可能な CRL を使うといった具合である。
| 区分 | CRL | OCSP | OCSP Stapling |
|---|---|---|---|
| 照会主体 | クライアント(全リスト) | クライアント(単件) | サーバが代わりに受信 |
| 伝送量/遅延 | 大(数 MB) | 小(単件、往復) | 小(ハンドシェイクに含む) |
| プライバシー | 良好(接続先を非露出) | 脆弱(CA に露出) | 良好 |
| 適時性 | 低(周期更新) | 高 | 高(応答有効期間内) |
| オフライン検証 | 可能 | 不可 | サーバキャッシュに依存 |
| 主な限界 | サイズ·時差 | プライバシー·可用性 | サーバ設定·応答欠落 |
実務事例を見ると、グローバル CDN・大型ポータルは TLS 終端で OCSP Stapling を既定で有効化し、数億件のハンドシェイクから CA 照会を除去する。逆に Let's Encrypt は 2025 年に OCSP を廃止し、CRL + ブラウザ内蔵方式へ転換したが、これは「個別照会のプライバシーリスクをなくし、失効情報の配布はブラウザの CRLite に委ねる」という設計判断である。一方、金融・公共のようにハードフェイルが要求される高保証環境では、Must-Staple や専用検証サーバを置いて「検証失敗時は遮断」を強制することもある。このように失効戦略は、サービスのリスク受容水準・接続性・規模に応じて異なる。
接続性が制約される環境は、さらに別の選択を迫る。閉域網・OT(運用技術)・IoT 機器は外部 OCSP Responder に常時アクセスしにくく、アクセスできても遅延・電力コストが大きい。こうした環境では、オフライン検証が可能な CRL を機器に周期的にプッシュするか、いっそ私設 CA を運用しながら短い有効期間で失効への依存度を下げる方式が現実的である。逆に、決済・認証のようにたった一件の失効欠落も金銭・法的損失に直結する取引は、性能を多少犠牲にしてもハードフェイルと Stapling を結合し、「確認されなければ進行しない」という原則を選ぶ。結局、同じ三つのメカニズムであっても リスク・接続性・コストの組み合わせに応じて全く異なる配置 に帰結し、この判断こそがセキュリティアーキテクトの設計力である。
5. 深化 — 失効検証パラダイムの転換
失効検証はここ数年の間に三つの方向へ急速に再編されている。第一は プライバシー優先への移行 である。Let's Encrypt の OCSP 廃止(2025.08)は、「失効照会がユーザの閲覧履歴を CA に渡してはならない」という原則を前面に立てた象徴的な出来事であり、他の CA にも影響を及ぼしている。失効検証の評価基準が「リアルタイム性」から「リアルタイム性 + プライバシー」へ拡張されたのである。
第二は 短命証明書と自動化への移行 である。CA/Browser Forum の SC-081(2025.04)により有効期間が 2029 年までに 47 日へ縮むと、失効に依存してリスクを除去していたモデルが「短く発行して頻繁に交換する」モデルへ変わる。これは ACME ベースの自動発行・配布・交換が運用の前提になることを意味し、手作業の証明書管理は事実上不可能になる。失効は消えないが、「最後の安全装置」へと性格が変わる。
第三は 検証責任のクライアント内在化 である。CRLite・CRLSets のようにブラウザが失効情報を圧縮してあらかじめ内蔵する方式は、接続時点のネットワーク照会自体をなくし、性能・プライバシー・可用性の三つを同時に捉える。ブルームフィルタのカスケードのような確率的データ構造で数億件の失効情報を数 MB に圧縮する工学的進歩がこれを支える。技術士の水準では、この三つの流れが「失効という事後統制を、事前統制(短命発行)と分散統制(クライアント内蔵)へ再配置する過程」であることを読み取ることが重要である。
6. 考慮事項および示唆点
第一に、フェイルポリシー(Fail Policy)をリスク水準に合わせて明示的に設計しなければならない。 可用性が重要な公開サービスではソフトフェイルが現実的だが、それ自体がセキュリティの空白であることを認識し、Stapling・Must-Staple・内蔵型失効で空白を埋めなければならない。金融・国防のように完全性が最優先の環境はハードフェイルを選ぶが、失効インフラの高可用性も併せて確保しなければならない。障害時の動作を「既定値に任せること」が最も危険である。
第二に、失効戦略は証明書ライフサイクル管理(Certificate Lifecycle Management)と切り離せない。 47 日有効期間の時代には、ACME ベースの自動発行・交換・監視の体系なしには運用が崩壊する。組織は証明書インベントリ・満了通知・自動更新・障害対応を統合した CLM プラットフォームを先行的に備え、失効対応と交換対応を一つのパイプラインに統合しなければならない。
第三に、プライバシーと規制整合性を設計要素として含めなければならない。 OCSP の閲覧履歴露出問題のように、セキュリティメカニズム自体が個人情報リスクを生みうる。個人情報保護規制(GDPR・韓国の個人情報保護法)の観点から、失効検証の経路が利用者の行動情報を第三者に露出しないか点検し、Stapling・クライアント内蔵方式を優先的に検討することが望ましい。
第四に、失効は単独の統制ではなく、PKI・観測・対応体系の一部として運用しなければならない。 CT ログ監視で誤発行を早期に検知し、鍵侵害時に迅速な失効・再発行が可能なインシデント対応手順(IR)と連携してこそ実効性が生じる。長期的には、ポスト量子暗号(PQC)への移行と相まって証明書アルゴリズムの交換が大規模な再発行・失効を引き起こしうるため、失効インフラの処理容量と自動化水準をあらかじめ確保する先見的な投資が必要である。
第五に、標準・ブラウザポリシーの変化を定数ではなく変数として管理しなければならない。 OCSP の廃止、有効期間の 47 日短縮のように、外部エコシステムの決定が組織の証明書運用を根本的に変えている。特定の CA や特定の失効方式に従属しないよう、マルチ CA 戦略と標準ベースの自動化(ACME)を備え、CA/Browser Forum・主要ブラウザのロードマップを定期的に検討するガバナンスプロセスを運用しなければならない。これは技術選択を越えて「信頼サプライチェーン(Trust Supply Chain)」のリスクを管理する技術士水準の戦略的課題である。
参考資料
- Let's Encrypt, "Intent to End OCSP Service" (2024.07), https://letsencrypt.org/2024/07/23/replacing-ocsp-with-crls/
- Let's Encrypt, "OCSP Service Has Reached End of Life" (2025.08), https://letsencrypt.org/2025/08/06/ocsp-service-has-reached-end-of-life/
- SSL.com, "Preparing for 47-Day SSL/TLS Certificates (CA/B Forum SC-081)", https://www.ssl.com/article/preparing-for-47-day-ssl-tls-certificates/
- Online Certificate Status Protocol — Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Online_Certificate_Status_Protocol
一言まとめ: 証明書失効検証は CRL(全リスト)・OCSP(単件照会)・OCSP Stapling(サーバ添付)で有効期間内の信頼撤回を確認する手続きであり、プライバシー・性能・可用性の衝突の中で OCSP 廃止・短命証明書・ブラウザ内蔵型(CRLite)へパラダイムが転換している。